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今月は歌舞伎座の六月大歌舞伎、昼の部の「名月八幡祭」と夜の部「一本刀土俵入」に出演していて、両演目とも市川猿之助さんと御一緒だった
彼と共演したのは久し振りだったけれども、御一緒に演らして貰うと、実に勉強になるし、何より楽しかった
こちらは足を引っ張らない様にするのに精一杯
昼の部では散々、足蹴にされて苛められた分、夜の部では駄目夫の僕をひたすら支えてくれるいい女房であった
暗転の間に毎日、合羽を着せてくれていたのだが、甲斐甲斐しく世話をしてくれるその心遣い、気遣いたるや、本当に嬉しい
まさに天才に昼夜共に引っ張って貰った一ヶ月だった
感謝しか無いね
常磐津「浮世風呂」も素晴らしく、何度も拝見させて貰った
立役、女形、踊り、どれを取っても天才的って、こりゃどう云う事だ
当然、御本人の努力が有るからの話であろうとも、一人に二物も三物も与えるなんて、神が真実に存在するとしたら、何と依怙贔屓なんだろう
嗚呼、だから、神なんて嫌いだし信じていないのだ
いや、嫌いで信じていないからこそ、向こうも僕の事は嫌いなんだろう
色々な意味で、奪い続ける残酷な天を、残酷な神を、僕はこれからも生きている限り憎み続けるだろう
望む所だ
いつも優雅な面して上から余裕綽々で見下ろしているんじゃない
こちらの方こそ、絶対に許さない
いつの日か、必ず、断罪する
鉄槌を下す
いや、私情と思い入れと恨みが入り過ぎた
話を戻そう
猿之助さんは僕よりが一つ下
でも、正直、年齢に関係無く尊敬している人間の中の一人である
彼が見放さないでいてくれるのなら、また今後は頻繁に出させて貰いたい物だ
坂東竹三郎さんと御一緒出来たのは財産
また、是非、お願いしたい
市川猿弥さんとも数年振りの芝居、凄く助けて貰った
市川笑也さんの相手役を初めて演ったのも、こちらとしてもとても勉強になった
さて、その昼の部の「名月八幡祭」では、僕は縮屋新助と云う役を演じていた
前にも日記に書いた通りに勿論、基本の演技とイメージは父である先代尾上辰之助の新助を頭に叩き込んで一ヶ月を通した
でも、実は前半の表情の部分だけ、父以外にも或る人物達を参考にはしていたのだ
それは「名月八幡祭」とは全く関係無い、僕の敬愛する漫画「北斗の拳」にほんの数コマだけ登場する、拳王事ラオウ軍に蹂躙される、無抵抗主義の村の住人達
特に、ラオウに殺される長老と、ラオウに殺され掛ける少年の二人
他人に無条件にニコニコしながらも、何処かに不安や怯えを残した笑顔
初めて読んだ当時、原哲夫先生の描いたその表情が物凄く印象に残ったから今回、少しだけ含んでみたつもりだ
もし、御覧になったお客さんの中で、僕が演じた新助に、そう云う、微笑みながらも何処か寄る辺無い不審感、不信感を感じ取って下さった方が少しでも居てくれたのならば、無駄ではない成功だったと、有難く思うのだが
また、ラストの場面、雨の中で芸者美代吉を凝視して行く首の動かし方は、映画「エクソシスト」のリンダ・ブレアが演じたリーガン・マクニールの首が180度回転する名場面を初めて観た時の言葉に出来なかった衝撃の悍ましさに通じた物を伝えられれば良かったのだが
こちらはせいぜい90度足らずの事でも“首一つを敢えて機械的に動かす”と云う動作だけでも“脳味噌と心と本能と身体を切り離して動かさせる”とは、なかなか難しい物だった
とは言え、あくまでも自分の中でイメージをトレースしていただけだから、それについて兎や角と「自分の仕事である歌舞伎をそんな風にして漫画や映画と一緒くたにするなんて」的な有難くも的外れな金言を下さる博識者振った似非通の人達の方がもし、また湧いて出てらっしゃったとしても、返してやれる言葉は一切持ち合わせていないから、当方としては、苦笑いを浮かべながら困る事位しかしてあげられない話なんだけれどもね
それにしても「番町皿屋敷」に「暗闇の丑松」、「名月八幡祭」と「坂崎出羽守」か
うん
僕は良く良く運命の女に人生を狂わされて壊されるのが好きみたいだ
現時点で名実共に歌舞伎界現役No.1の振られキャラクターである事は間違い無いな
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