歌舞伎役者
四代目尾上松緑
日本舞踊家
六世藤間勘右衞門
己が吐き出す為だけの
取るに足らぬ残日録
無断の転載や
スクリーンショットの盗用等
断じて願い下げる
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足がもげるかと思った
いや、正直、舞台に上がっている瞬間は「いい芝居が出来てお客さんが盛り上がってくれるのであれば、足の一本位、千切れても構わない」とばかりにアドレナリンが出まくり、或る意味でランナーズハイに近い様な状態になってしまう事が有ると思うのだよな、役者って
それとも、僕だけなのか
だとしたら、特に今月、僕が演じていたのは自分の中でアドレナリンがどうにも止まらなくなるタイプの二役だったのだ
今日、歌舞伎座での、その十二月大歌舞伎が無事に千穐楽を迎えた
足のコンディションだけを考えると正直、良く休まずに今日を迎えられたと思う
歌舞伎役者を続けて来て、興行中に「ひょっとしたら筋でも切れていて休演する事になるのではないか」とか「公演が終わっても薬が切れて痛みの感覚が身体に戻って来たら一生、片足を引き摺ったままなのではないか」と、弱気になって背中に冷や汗をかいたのは初めてだった
三週間近く、結構な激痛とのお付き合いだった
自分で自分を誉める気も、そんな趣味も更々無いが、今回は自分の左膝だけは誉めてやりたいと思う
痛み止めが無かったら、途中で心が挫けていたかも知れない
何とか気持ちが折れないで済んだのは痛み止めの御陰
日に日に錠数は増えて行ったけれども、それは仕方無い
最低限度の必要悪、保険
まさに痛み止め様々
兎に角、今年も一年、表向きには大きな怪我無く、休演せずに舞台を勤められた事
当たり前の様でいて、実は有難い事だ
辛うじて今まで良く持ったよ
本当に良かった
「倭仮名在原系図」を前回に演った際には肋骨にヒビを入れてしまったのだが、今回の左膝はどうなってしまっているのかを聞くのが怖くて病院には行っていないので、まだ詳しい症状は不明
でも、痛み止めが効けば動けるのだから、行く必要は無いか
この年末年始、明日からは「世界花小栗判官」や「義経千本桜」の通し稽古も始まるし、無茶苦茶忙しい日が続くから時間なんて無いからな
まだ、痛み止めは腐る程に有る
命を懸ける仕事をしていられると云うのは無論、辛さも有る
それと引き換えのこの上無い幸福も有るのだ
「その辛さと幸福、どちらの方が重いか」と、天秤に掛ける事は出来ない
「辛さの方が重い」と、悲観もしたくない
「勿論、幸福の方が重い」等と、偽善も吐きたくはない
同年代の“仲間”と呼んだ愛すべき名題下達が立廻りを段々と引退して行ったり、出番や活躍の場を若く活きのいい育ち盛り、生意気盛りに少しずつ譲って行く姿を目の当たりする事が多くなって来た昨今
若き怖い物知らずの力を頼もしく、また、少し寂しい気持ちを心に抱きつつも、その「同年代の“仲間”達と培った“想い”と“経験”を、まるで昔の我々を見る様な育ち盛り、生意気盛りの活きのいい怖い物知らずの“仲間”達にまた、再び新たに伝えて行くのも、生き残り、未だ現場の真ん中に相も変わらず立ち続けている僕の役目の一つではないのか」な、とね
殊、古典の立廻りに関しては今、物凄く痛烈にそう感じている
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