歌舞伎役者
四代目尾上松緑
日本舞踊家
六世藤間勘右衞門
己が吐き出す為だけの
取るに足らぬ残日録
無断の転載や
スクリーンショットの盗用等
断じて願い下げる
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一昨日、今月の歌舞伎座での歌舞伎公演が千穐楽を迎えた
まさか柿葺落公演の中で女形を披露
しかも、その新しい歌舞伎座で初の宙乗りをするのが自分だとは想像だにしなかった
そして、通し狂言の演し物をしよう事等一生無いとも思っていたので、それに誰より一番驚いたのも僕に他ならないと断言出来る
普段はあまり御一緒する機会が少ない、中村小山三さんに色々と助言を貰ったり、写真入りのチロルチョコをプレゼントしてくれたのも嬉しかった
責任有る仕事を今月も、津川雅彦さんや大沢悠里さん、篠山紀信さん、加納幸和さん、本郷弦さん、西森英行さん、見城美枝子さん、小清水亜美さんに広橋涼さんと云った、懇意にさせて頂いている方達も応援に駆け付けてくれて観て貰えたと云うのは仕事冥利に尽きるね
昼の部の演目「加賀見山再岩藤」の岩藤の霊で尾上菊之助さんに酷い嫌味を言った上に草履で引っ叩く暴挙に出た応報に夜の「東海道四谷怪談」の直助権兵衛では、惚れた女を彼に奪われた上、散々虚仮にされると云う仕返しを受けた訳だが
今月、演じていた三役の中では直助に一番シンパシーを感じる
「加賀見山再岩藤」で演じていたもう一役の鳥居又助
所謂、ただひたすら律儀ないい人
彼は謀略に巻き込まれ、忠義と義理と愛情の挾間で八方塞がりの苦悩した結果、切腹する
切腹、と言えば潔く聞こえはいいかも知れないが、要は自殺
僕は他人に袋小路に追い詰められて自殺するなんて真っ平ごめんだ
自殺するにしても、自分の権利と信念の下で納得しながら死んで行きたい
そこに行くと直助は、自分の事だけしか考えていない
己の欲望、女、金、帳尻合わせ、それだけだ
その為には殺人、窃盗、強請、買春、ストーカー行為にレイプ紛い、どんな下衆で汚い事さえもする
しかも、そこに善悪の概念なんかは一切持ち合わせていない
今回の台本ではカットされたが、直助も最後は切腹して死んで行く
だが、あの男の切腹は又助の場合と違って自分が望んでの死の形だ
最後の最後まで自分がどう在りたいかが一番大事な男だったのだろう
その本能が羨ましい
あれ程自分に正直な男は、歌舞伎のキャラクターの中にもなかなか存在しない
僕もそう生きて、死んで行きたい物だ
人間の根本は所詮、性悪説だからね
ちなみに、坂東亀三郎さん演じた奥田庄三郎が顔の皮を剥がれた後にかぶっていたマスクだけは小道具ではなく、我が弟子の尾上松男の製作である
なかなかグロテスクに良く出来ていたよ
話は変わるが、考えてみたら僕は振られる役が多い
数年前、亡くなった中村富十郎の小父さんの矢車会と云う公演で清元の「お祭り」を踊った時
あの振付は我が藤間流だったが、中村福助の兄さん演じる芸者を、市川染五郎さんと僕の二人の鳶頭が奪い合い、結局は福助の兄さんと染五郎さんがくっ付いて、僕が振られると云う演出だった
「毛抜」の粂寺弾正に至りては一演目の間に立て続けに二度振られるしね
プライヴェートでも大体が高値の花狙いだったので、撃墜率は三割ちょっと程度だったから、この立ち位置は当たらずとも遠からずか
これが打率だったら三割超えなんて、広島東洋カープや西武ライオンズでもスタメンに入れて首位打者争いにも名を連ねられる筈なんだけどね
昨日は九月の歌舞伎公演の記者発表だった
はっきり言って、あの手の場は嫌いだ
意図してもいない事すら大袈裟且つ中途半端、ドラマティックに脚色、曲解され、伝えたい話は伝わらず、くだらない妄想や憶測が垂れ流されるのが殆どだから
だが、それも仕事の内といつもいつも腹の中で苦虫を噛み潰して我慢している
明日はその公演の宣伝写真撮り
今週末には来月四日に行われる藤間勘陽女さんの舞踊会、藤陽会に素踊りの長唄「供奴」で出演する為に倉敷に行く予定である
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種も無く、皮ごと行ける
そして、なんと言っても美味い
甘い物をあまり好きではない僕でもとても欲してしまう
嗚呼、何て素晴らしい食べ物であろうか、シャインマスカット
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今月は歌舞伎座での歌舞伎公演、「加賀見山再岩藤」と「東海道四谷怪談」にて、岩藤の霊と鳥居又助、直助権兵衛の3役を勤めている
その中の又助に「持つべき物は朋友」と云う台詞が有る
これは又助のフォローをしてくれようとする元同僚の勝平に対して云う台詞なのだが、その勝平は今月、プライヴェートでも友達である中村松江さんが演じている
話は変わるが僕は今までの人生の中で1回だけ舞台を休演した事が有る
20歳になるやならず、オウム真理教が地下鉄サリン事件を起こす前の月の事
松竹株式会社創立100年の記念公演、僕自身初めて「仮名手本忠臣蔵」の演目に通しで出演した時だ
当時、100kg近い体重だった僕は竹森喜多八隆重を昼夜で演じていて、「泉水」の場の立廻りで巴投げを受け損ない鎖骨を折ったのだ
病気等の止むを得ない状態ならまだしも、幾ら舞台上の事故とは云え骨折、しかも休演等有り得ない
ましてや病院では絶対安静は言い渡されたが、右肩以外は健康その物
代役を立てる事での松竹株式会社、先輩、同輩達へ掛ける迷惑からの自己嫌悪や、チャンスを棒に振った不甲斐無さ、己のミステイクでの休演と云う歌舞伎役者に有るまじき大失態、身の振り方まで、ネガティヴな事ばかりを考えてしまっていた
そんな時に毎晩の様に自分の仕事が終わった後、僕の家に顔を見せに来てくれたのが松江さんだった
時には彼がお気に入りのLD、時には僕が好みそうなCDやらを持って来て、別に殆ど何の会話もせずにそれを観賞して帰るだけ
後年、その話をすると「面白い映画や音楽だからあらしにも渡そうと思っただけだよ」と彼ははにかむ
きっと、そうなんだろう
彼はさして深い気持ちではなかったのかも知れない
人は「青臭い」、「陳腐だ」と鼻で笑って吐き捨てるだろう
でも、僕はあの時の嬉しさを生涯忘れない
遥かその以前、僕が未成年の頃からつるんで良からぬ遊びをしていた、歴代のお互いの恋人まで両手の指の数は知っている位の仲のいい友達だったが、あの時こそ彼のその優しさに確かに救われた
歌舞伎役者にも友達は居ない事は無いが、その中でも彼は心の底から信頼出来る数少ない男の1人だ
彼との付き合いは、僕が死ぬか、彼が僕に愛想を尽かすその時まで続く事を信じて疑わない
だからこそ、今月の「持つべき物は朋友」と云う何気無い台詞も、僕個人の気持ちと又助の肚がシンクロして、本心から言えているのだ
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最近、ちょくちょく聞かれる事で、どうやら随分と勘違いをされてる様なので困るからこの場で誤解を解いておきたい
僕はピアス等していないし、今までの人生で一度たりとも耳に穴を開けた事は無い
かなり昔に坂東亀三郎さんにプレゼントして貰ったイヤリングとかが有るので、それをたまに付けているだけだ
歌舞伎役者と日本舞踊家としての馘を斬られた時には、ボディピアスと彫物で身体は穴だらけの全身和彫り塗れになるであろうがね
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或る人に貰った助言
成程、覚えておかなければならない重要な事ばかりだったので、忘れぬ為に此処に記しておく事にする
1.いつでもこれでいいと云う満足を感じずに一生を過ごす
2.自分を見失うな
3.いつまでも若く感激性を保持しなければ舞台や役の感激に浸れず、合理主義的演技に陥ってしまう
4.確信と反省を絶えず忘れてはいけない
5.巧く演ろうと思わず、ただ全力を尽くせ
6.拙くとも自ら創り出せ
7.行き詰まり、そして打ち破る
8.昨日良く出来ても昨日の様に演ろうと思うな、今日は今日の気持ちで演れ
9.稽古中は臆病に、舞台に出たら自信を持つ
10.早く言う時は心持ちゆっくり喋る様に
11.修業はこれからだ
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