臓物が煮え繰り返って一睡も出来やしない
この年の瀬に来て、こんな理不尽で不快な憂き目を与えられるとはね
此処まで舐められ、軽んじられるとは笑いが出る位だ
まさか、一年の最後をこれ程の屈辱で締める事になるとは思ってもいなかった
有難う
年を越すには最悪の気分だ
有難うよ
久し振りに味わう気分だ
寂しくもあるな
僕も坂東亀寿さんも今後、何回演れるか分からないからね
こんなに息の合う、信じるに足る相方はそうそう巡り逢える物ではない
泉水で彼と闘うのはこれが一生で最後だろう
そのつもりで名残を惜しみながら今日、千穐楽の舞台を勤めよう
さて、華々しく死んで来るか
今日はまさに赤穂浪士四十七士の討ち入りの日だな
その日に敵方の高家(吉良)側の用心棒を演じていると云うのも何ぞの因縁か
「仮名手本忠臣蔵」では今月、僕が演じている小林平八郎は立廻りの場面にしか現れない為、どの文献や資料を調べても、どう云う肚で女物の着物をかぶって登場するのかは殆ど記されていない
ましてや、史実上の上杉家臣、小林平八郎央通とは年齢から立ち位置、全てに於いて変わっているので、史実を基本にする事も難しい
「仮名手本忠臣蔵」中の小林平八郎は、吉良家もう一人の剣豪、清水一学とのミックスでキャラクターが想像されたと考えるのがいい
だから、自分の今までの歌舞伎の経験と想像力、そして「自分だったらどうするか」を思いながら、一番肚に落ち、納得出来る気持ちと結論を練り出すしかない訳だ
今月のプログラムに僕は、あの格好をしているのは「逃げようとしているのではなく、養子先(史実で言う所の上杉家)等へ救援の要請に向かうつもりだったのだろう」と、推察した
稽古から初日に掛けてそのつもりで勤めて来た
だが、演っている内に日に日に考えが変わって行った
はっきり言ってあの討ち入りは、討ち入られた時点で勝敗は決している
小林平八郎程の腕に覚え有る達人がそれを察せぬ筈は無い
だったら、彼は一発逆転の博打を打とうとしたのでは
つまりは大将首、大星由良之助良兼
悟られぬ様に女の着物で由良之助に近付き、生命を奪えば残党の士気は落ち、討ち入りは瓦解するのではないか
それを狙ったのではないか
由良之助を狙い探している内に他の浪士に正体を明かされ、その後はただ武人の本能として闘いを楽しんだ後、己の死ぬべき所で納得して死んで行ったのではないか
そうでないと最後に、突き出された槍を自ら腹に抉り立てる道理に辿り着かない気がするのだ
僕の中では今、その考えが一番、しっくり来る
今は毎日、そう云う肚で平八郎を演じている
これから観て下さるお客さんには、そう思って観て欲しいと思う
そして、僕がそう思って演じている事をあの五分前後の短くも激しい闘いの中で、お客さんに少しでも伝えられていれば本望である
劇場はアトリエヘリコプター
岩井秀人さんが主宰する劇団、ハイバイの「ワレワレのモロモロ・東京編」
ハイバイの舞台を観るのは昨日が初めて
とても楽しく観た
声を出して笑わせて貰った
今回の公演は八本の短編からなるオムニバスで、出演者九人の内、主宰者、劇団員を含む八人がそれぞれ一本ずつ責任で作品を書いていると云うのも面白い
その中でも僕が特に惹かれたのは「いとこの結婚」、「深夜漫画喫茶」、「『て』で起こった悲惨」の三本かな
出演者九人が皆、違う個性が光って生き生きと、尚且つ、客席に向かって分かる様に投げ掛けてくれていたので飲み込み易く、途中十分の休憩を含んで二時間四十分弱の長丁場なのに、全く飽きさせる事無くあっと言う間に時間が過ぎて行った
TVでは良く観る荒川良々さんの芝居を初めて生で観られた事も嬉しい
岩井秀人さんの笑いを散り嵌めながらも、何処からともなく少しの陰が漂って来る構成、演出
平原テツさん、師岡広明さんと云う二人の俳優さんにも興味を引かれた
ハイバイ共々、今後は注目して、また次の公演も楽しみにしよう
アトリエヘリコプター、初めて訪れたんだけれども、お客さん一杯だったし、小劇場らしい雰囲気の有るいい劇場
新たな発見
新たな出逢い
うん、有意義な時間を過ごせて、いいリフレッシュになったな
今日からまた、自分が演じる為の演る気とエネルギーを貰えた気がした
連れて行ってくれた昔の恋人に感謝だ
公演は今月の二十三日まで続くとの事
「今年最後の演劇は何を観ようか」と、お迷いなら、国立劇場大劇場の「仮名手本忠臣蔵」三ヶ月連続完全通し上演第三部か、アトリエヘリコプターのハイバイ公演「ワレワレのモロモロ・東京編」のどちらかを強くお勧めする
いや、日に依っては昼の十一時から「仮名手本忠臣蔵」、夜十九時から「ワレワレのモロモロ・東京編」と、観劇のダブルヘッダーをする事も可能だから、それを一番プッシュしたい
最後に、話を変えて少しだけ
今日は娘の十三回目の誕生日
一昨日、一緒に食事はしたけれど、当日に直接「御目出度う」と言って祝ってあげられないのが切ない
せめては、彼女が楽しく素敵な誕生日を過ごせる事を心から願っている
本当なのか
面識は無かったけど、好きな俳優さんの一人だ
心底、可哀想だと思う
暴きたい奴、知りたい奴はルールも限度も超えて、何でもかんでも頭を、顔を、首を、目を、耳を、嘴を突っ込んでデリカシー無く、ずかずかと土足で踏み込んで来るからな
本当にどうかしている
失望してしまったのかも知れないな
いや、絶望か
人間不信にもなるよな、そりゃ
全てが嫌になる、怖くなってしまうのも分からないではないよ
信じていた人間に裏切られた上、プライヴェートまで根掘り葉掘り騒いで口性無く責め立てられたら、心が壊され、神経なんか参るに決まっているじゃないか
計り知れる物ではない
無関係の僕ですら、加害者達のあまりの理不尽に怒りを感じる
今の気持ちを考えると胸が押し潰されそうだ
芝居も上手くて、時分の華も有り、見目麗しい、三拍子揃った素敵な役者さんだったのに
勿体無い
残念で仕方が無い
親類としても、実に有難い話だ
そして、後輩としても、同輩としても、先輩としても嬉しい
僕如きでも、何か出来る事が有るのならば、是非、何でも協力したい物だ
今日は朝から凡ミス続き
それが今からの芝居に響かない様に気を付けないと
今月、演じている小林平八郎はちょっと、気が抜けたら怪我する可能性も無い訳じゃ無いからな
「ソーセージ・パーティー」、予想を上回る酷い映画だったな
うん、いい意味で
良くあれにエドワード・ノートンとか、サルマ・ハヤックが声を当てるのOKしたな
娘と息子には絶対、勧められない映画だ
ブルーレイディスクとサントラが出たら買おう
僕が演じるのは高家付人、小林平八郎
討ち入りした塩冶浪士の一人、竹森喜多八隆重と一騎討ちをする
先月の斧定九郎に引き続き、一瞬に懸ける
今月は竹森役の坂東亀寿さんしか目に入らない
まるで一日千秋の恋人を待つ心持ちだ
そして、今年最後の役にして、二ヶ月連続で殺される
実に僕に相応しい年末
この役も一生の内で最後かも知れない、一期一会のつもりで勤める肚
さて、行くか
何と
僕の大好きな俳優さんばかり
こう云う番組を待っていたのだよ
必ず、HDDレコーダーに録画しよう
非常に楽しみ