今日の話
今月、歌舞伎座にて演じている「極付幡随長兵衛」の水野十郎左衛門
終演後、風呂に入り、洋服に着替え、いざ帰ろうとした所
急遽、楽屋に押し戻されて、代役の打診
約三時間後には開演し、舞台の上に乗っていた
演じた代役は「菅原伝授手習鑑・寺子屋」の舎人松王丸
八年か九年振りだ
とは云え
幾ら、演った事の有る役でも難役な上に、型も違う
しかし、今回は力足らずながら、及ばずながらも、極力、本役通りの演り方に近く寄せられる所は寄せて、準じて勤めさせて頂く所存
家の衣裳は銀鼠なので、まさか、一生着る事の無い筈の、黒の雪持を着る機会が来ようとは
稽古も無く、頼まれてから三時間で本番
また寿命が縮んだ
まだ、今日一日演っただけの感触だけれども、衣裳に関しては銀鼠は色気は出るが、黒の方が敵役味が強く出るイメージなので、ひょっとしたら、僕の柄だったら、黒の方がすんなり楽に役に入って行けるのかも知れない、とは思った
ただ、家の型はあくまでも銀鼠だから、松王丸の黒の衣裳はこの代役が済んだら、また万が一に誰かの代役を頼まれない限り、もう二度と着る事は無い
今日は兎に角、無事に幕だけは閉める事が出来た
これも、共演者、先輩、同輩、後輩、音楽隊、楽屋のスタッフの皆さんの御陰だ
でも、役を終えた後、抑えていた緊張が一気に振り返したのか、えずきが数時間、止まらなかった
自分が脳で考えている以上に、心と身体の方には甚大なプレッシャーが掛かっていたのだろう
取り敢えず、今の所は期間は明後日までと云う話になっているが
兎に角、養生されて、しっかりと元気になられる事を心から願っている
それがいつになろうとも
また、代役をした時のいつもの如く、心無い者に何をされようとも、それまで舞台の上を守るのが僕の務めだ
「この男になら任せられる」と踏んで、地力を信頼して荷を降ろして下さった全ての方々への応えだ
そんな人達と応援して下さるお客さん達、家族、自分の為のみに僕は演る
そんな、今年二度目の代役